鹿児島大学病院 心臓血管外科 — 若手医師が語る“この仕事の魅力とリアル”
心臓血管外科医を目指したキッカケ
研修医として外科全体に興味を持ち始めた頃、どの分野に進むべきか非常に悩んでいました。外科といっても消化器、呼吸器、整形外科など多岐にわたり、どれも魅力的でした。その中で心臓血管外科の手術を初めて見学した時、強烈な印象を受けました。
心臓を一度止めて手術を行い、最後に再び動き出す。その過程は、単なる技術や手技の枠を超えて “命を直接扱っている” という緊張感と神秘性に満ちていました。さらに、細い血管を縫い合わせていく精密さ、術中の判断の連続など、医師としての総合力が問われる点にも強く魅力を感じました。
「自分はこの仕事に人生をかけたい」。そう思わせてくれた瞬間でした。
初めて執刀した時のこと、覚えていますか?
初めて執刀に立った時は、緊張と期待が入り混じった独特の感覚でした。ピンと張り詰めた空気の中で、器械を持つ手が少し震えたのを覚えています。しかし、手術の流れを何度も頭の中でシミュレーションしていたこともあり、次に何をするか、どう動くべきかを冷静に理解しながら進むことができました。
「いよいよ自分が手術を担うのだ」という責任感は大きく、その分、執刀が終わった後の達成感はこれまでにないものでした。外科医として確実に一歩を踏み出せた——そう実感できた瞬間です。
心臓血管外科の醍醐味は何ですか?
心臓血管外科は、“結果がその場で見える” という特徴があります。手術の流れは一つひとつが緻密で、どのステップが欠けても良い結果にはつながりません。その分、血流が改善し、心臓が力強く拍動を再開した瞬間の手応えは、ほかのどんな職種にも代えがたいものがあります。
また、心臓は生命活動の中心であり、一つの判断が患者さんの人生を大きく左右する可能性があります。そうした重責の中で、最良の判断を積み重ねていくことが、この分野の奥深さであり醍醐味です。
手術で患者さんの人生が変わったと実感した瞬間
特に印象に残っているのは、緊急で搬送された患者さんのケースです。このまま手術をしなければ命が危ない、と判断されるほどの重症状態でした。術後はICUに長い期間滞在する必要がありましたが、焦らず丁寧にリハビリを進め、ゆっくりと体力を取り戻していきました。
そして、歩いて退院された瞬間の表情は今でも忘れられません。ご家族の安堵の表情も含め、「この仕事に携われて良かった」と心から思える瞬間でした。患者さんの人生の再スタートに関わることができるのは、心臓血管外科医としての大きな喜びです。
心臓血管外科でしか味わえない達成感とは
外科手術は患者さんの体に少なからず負担をかけます。その痛みや不安を理解しつつ、最善の結果を出す責任を持たなければなりません。予定通りに手術が進み、術後の経過が安定し、生活の質が向上していくのを見ると、胸の奥からじわっと湧き上がるような達成感を覚えます。
「この治療を選んでよかった」と患者さん本人が感じてくれることが、私たちにとっての最大の喜びです。心臓血管外科は技術だけでなく、人の生活や未来を支えている実感を強く得られる分野です。
若手に伝えたい「覚悟」とは?
若手のうちから手術に入り、ただ見ているのではなく「自分が執刀するならどう進めるか」を常に考えながら臨むことが何よりも大切です。心臓血管外科は治療法の選択肢が多く、主治医として患者さんと向き合う姿勢が強く問われます。
医学的に何が最善か、患者さんの希望をどこまで尊重するか——そのバランスを取るには経験だけでなく、人としての覚悟も求められます。この覚悟を持って日々の臨床に向き合ってほしいと思います。
医局の雰囲気は?
手術中はもちろん緊張感がありますが、医局に戻れば和やかな雰囲気が流れています。鹿児島大学病院の心臓血管外科はチーム制を採用しており、Aチーム・Bチームで担当を明確に分担しています。
オン/オフの切り替えがはっきりしているため、休むときはしっかり休めますし、自分の担当の日は集中して責任を持って業務にあたることができます。働きやすさと責任の両方を両立した、非常に良い環境だと感じています。
他診療科との連携について
心臓血管外科は単独では完結しません。毎週火曜日には「ハートチームカンファレンス」が開かれ、循環器内科とともに手術適応を慎重に議論します。心臓の病気は治療法が多岐にわたるため、多角的な視点が欠かせません。
また、麻酔科とも密にコミュニケーションを取り、一つひとつの症例ごとに最適な手術の進め方を共有します。こうした緊密な連携が、患者さんにとっての安全性と治療の質につながっています。
成長できる環境は整っていますか?
外科専門医の取得に向け、まずは一度大学病院を離れて関連施設で研修を行います。その後、再び鹿児島大学病院に戻り、心臓血管外科の専門プログラムに沿って研鑽を積んでいきます。
若手の育成環境として特徴的なのは、オフ・ザ・ジョブ・トレーニングが充実している点です。豚の心臓やトレーニングキットを使って縫合の練習を行うことで、実際の手術に近い感覚を身につけることができます。また、先輩医師が丁寧にフィードバックしてくれるため、段階的にステップアップが可能です。
技術だけでなく思考力や判断力も磨かれる環境であり、安心して成長していけると感じています。
女性医師の働きやすさについて
心臓血管外科はハードなイメージを持たれがちですが、鹿児島大学病院ではチーム制を生かして柔軟な働き方が可能です。突発的な事情があってもチーム内でカバーできる体制が整っており、男女問わず働きやすい環境です。
女性医師の入局ももちろん歓迎しており、キャリアを継続しながら専門性を磨ける環境が整っています。
教育熱心な先輩方が多いですか?
実際に困ったとき、先輩方は誰一人として嫌な顔をせず、的確なアドバイスをくださいます。「自分ならこうする」という視点をもらえることは、若手にとって非常に大きな学びです。
悩みや迷いが生じるのは当然ですが、その都度相談できる環境があることが、鹿児島大学病院 心臓血管外科の魅力の一つだと思います。
見学ではどんなことが見られますか?
病院見学では、基本的に手術室に入り、実際の手術の流れを間近で体験していただけます。1日だけの見学でも、手術の緊張感や医局の雰囲気をしっかり感じてもらうことができますし、複数日であれば病棟での処置や患者さんとの関わりなど、より深く理解できる機会が増えます。
その方の希望に合わせて見学内容を調整できるため、「まずは雰囲気を知りたい」という段階からでも安心して参加できます。
どんな後輩に来てほしいですか?
特別な条件や能力は必要ありません。心臓血管外科に興味を持ち、「ここで働きたい」と思ってくれる方であれば大歓迎です。私自身も若手として学んでいる立場であり、一緒に切磋琢磨できる仲間が増えることは心強い限りです。
心臓血管外科に興味がある学生・若手医師へのメッセージ
心臓血管外科に進むという決断は大きく、覚悟が必要です。生活のこと、キャリアのこと、不安に思うことも当然あると思います。しかし、この分野には、それを乗り越えた先にしか得られない大きなやりがいがあります。
まずは見学に来て、手術の迫力やチームの雰囲気を肌で感じてください。「ここで働きたい」と思ってくれた方とは、ぜひ一緒に未来の心臓血管外科を支えていければ嬉しいです。
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