血管外科で扱う疾患

① 腹部大動脈瘤

動脈瘤とは動脈の病気で、正常の直径より大きくなったものを言います。腹部大動脈瘤は年々増加の傾向にあります。高齢者の増加、および食生活をはじめとする生活環境の変化によるものと考えられています。

症状

心臓の拍動に一致した腫瘤(こぶ)を臍の付近に触れることができます。腹部大動脈瘤が存在しても通常、痛みや不快感などはありません。腹痛、背部痛、腰痛、頻尿など症状が出現した場合、破裂、あるいは破裂しかかっていることが強く疑われます。

病因

1.動脈硬化症
2.感染性(細菌、真菌の感染など)
3.Marfan症候群(先天的な動脈壁の異状によるもの)
4.大動脈炎症候群(膠原病、自己免疫疾患など)
5.外傷性などが挙げられますが、大部分の原因は動脈硬化で、動脈瘤の内壁には、ほぼ例外なく高度の粥状硬化所見が認められます。

治療

1)人工血管置換術 2)ステントグラフト治療(血管内治療) の2つの方法があります。
腹部大動脈瘤の瘤径が増大するにつれて、破裂の危険性が増加します。正常の腹部大動脈径は15~23mmですが、原則として50mmを超えた場合、治療適応としています。40~45mmでも状況によっては治療を考慮します。
腸骨動脈の正常径は10~15mmですが、原則として30mmを超えれば治療を考慮します。 破裂または破裂しかかっている場合は、緊急手術の対象となります。

閉塞性動脈硬化症(ASO)は、手や足の血管の動脈硬化により、狭窄(血管が狭くなる)や閉塞(血管が詰まる)を起こして、血液の流れが悪くなり、手先や足先へ栄養や酸素を十分に送り届けることができなくなる病気で、手足にさまざまな障害が現れます。

《閉塞性動脈硬化症の主な症状》
FontaineⅠ度(軽度虚血)冷感、しびれ感、無症状
FonatineⅡ度(中等度虚血)間歇性跛行
FontaineⅢ度(高度虚血)安静時痛
FontaineⅣ度(重度虚血)潰瘍、壊疽
FontaineⅢ度、Ⅳ度の症状を有する状態を重症虚血肢とよび、血行再建術の絶対適応となります。

治療

1)薬物療法
2)運動療法
3)血行再建(血管内治療、バイパス術
人工血管、自家静脈を使用し、狭窄、閉塞部の先へバイパスを造る 重症虚血肢に対してはできるだけ切断を回避するため、足関節周囲へのバイパスするdistal bypassも積極的に行います。 また、血管内治療とバイパスを組み合わせたhybrid血行再建も多く行っております。 4)コレステロール吸着療法
(悪玉コレステロールを血液浄化療法で吸着する)
5)腰部交感神経節ブロック

② 下肢静脈瘤

1)下肢静脈瘤とは・・・・

足の静脈が太くなって浮き出ているようになった状態をいいます。静脈瘤の多くは太くなっているばかりではなく、曲がりくねっています。太さも様々です。以下の4つの種類があります。

2)静脈瘤の症状

足がむくむ、だるい、重い、痛む、ほてるなどの症状が良く出ます。足の筋肉がつる、いわゆる「こむら返り」もおこりやすくなります。症状がさらに悪化すると、湿疹、色素沈着、潰瘍形成がおこります。

3)静脈瘤のできやすい人

女性:男性に比べ発生頻度が高いです。
遺伝:血縁者に静脈瘤のある人におこりやすい。
妊娠:妊娠、分娩後に静脈瘤ができる人が多い。
立ち仕事:長時間の立ち仕事を行う人に多い。教師、美容師、調理師、看護士、スチュワーデス、店員など
年齢:加齢と共に静脈瘤の頻度は増加する。

4)どうして静脈瘤ができるのでしょう?

多くの静脈瘤は表在静脈の静脈弁が破壊されたために発生します。弁が正常に働かないと、血液は逆流し足の下の方に血液が溜まります。その結果、静脈は拡張し静脈瘤ができてくるのです。

5)治療法

① 保存的治療・・弾性ストッキングなど(症状の進行を止める)
② 手術治療(根治)・・ストリッピング手術(静脈抜去術)、硬化療法
麻酔:局所麻酔(TLA麻酔)+静脈麻酔併用 脊椎、硬膜外麻酔など

手術治療の心配な点(合併症)

1)出血、血腫形成
皮下斑状出血、色素沈着などである。自然消失することが多い。
2)神経合併症 数%の頻度
痺れ、知覚鈍麻など ビタミン剤内服などで対応。数ヶ月で回復することが多い。
3)深部静脈、動脈損傷 0.3%以下
4)深部静脈血栓症(0.4%)、肺塞栓症(0.1%)
5)創部治癒遷延
6)麻酔の合併症 など

③深部静脈血栓症:薬物治療・血栓除去・血栓溶解療法など

高齢者、透析患者さんの増大、糖尿病、高脂血症などの疾患罹患率が増大してきている現在、動脈硬化が原因の疾患が増大しています。
全身の血管に動脈硬化性変化(動脈瘤、閉塞性疾患)がおこります。
血管グループではそのような血管疾患のうち腹部血管疾患、下肢血管疾患を中心に診療を行っております。血管疾患を真摯に診察し、患者さん一人一人に適した治療方針を決定していくように努力しています。我々の技術提供によって、多くの患者さんに恩恵が与えられるように日々精進して参りたいと思います。

平成21年~平成28年の8年間の症例数

H28 H27 H26 H25 H24 H23 H22 H21
ステントグラフト 35 38 34 22 17 19 14 13
動脈瘤 74 64 71 47 44 52 42 39
(破裂) (5) (3) (7) (3) (5) (2) (2)
慢性動脈閉塞症 60 61 70 80 93 64 61 57
急性動脈閉塞 15 6 8 5 5 7 2 8
血管外傷 7 4 7 5 0 0 0 2
下肢静脈瘤 / その他 23 36 49 40 50 36 35 33
合計 179 171 205 177 192 159 140 139